夫は言った。

ルーベンス展に行かない?」

 

展覧会に興味を示さない夫が言ったのである。こんな機を逃しては一生夫と展覧会に行くことはない。ノリノリで国立西洋美術館に行った。

 

私のルーベンスの知識といえば、「フランダースの犬」程度である。ネロがパトラッシュと一緒に天に召される、あの場面だ。夫も私とどっこいどっこいの知識で、お互いを頼りに展覧会に臨むことに。果たしてどうなるのか……。

 

結論から申し上げると、私はルーベンスと肌が合わなかった。なんというか、ノッペリとしてませんか?作品の印象が。巨匠なんだろうけれど、あんまり心が動かされなかった。「あー。なるほど」という程度に思い、夫もそう感じたという。「少しは美術史をかじったんだからルーベンスを教えてよ」と問われても、何も答えられなかった。私も教えてほしい。

 

モヤモヤしながら、美術館を出てコーヒー屋へと向かう。アイスコーヒーを飲んで、頭をスッキリさせるために。しかし、考えても考えてもモヤモヤはおさまらない。何の気なしに「私、フェルメールのほうが好きかも」と言ってみると、「俺も」と夫が。そこで、夫と趣向が同じ方向に向いていることに、改めて気づきホッとする。

 

コーヒー屋を出れば、少し雨が降っていた。こんな秋の日もある。濡れて帰るのも一興である。上野駅付近の駐輪場でとめていた自転車を出し、家路へとついた。