懐かしの味

今は亡き実母は、破天荒な人間だった。どこがどう破天荒かと問われれば、原稿用紙200枚は軽くいくほど書ける人間だった。

 

実母は非常勤ながらも働いていた。器用な人間ではないので、仕事が一番で、家事は二の次だった。まぁ、それはそれでいいのだが、しわ寄せは私たちにきた。

 

実母の忘れられないエピソードがある。

 

炊事洗濯が大嫌いだった母。特に夕飯の支度が面倒くさくて仕方なかった、らしい。子どもながらに、夕飯を待ち望んでいる私は罪悪感を持っていた。そんなある日。一生忘れられられない夕飯が出てきた。

 

  • ご飯
  • インスタント味噌汁
  • 生ハム

 

予々、私の好物は生ハムだと母に伝えていた。しかし、まさか、おかずに生ハムが出てくるとは!しかも、サラダに添えているんじゃなくて、生ハムがメインのおかずなのである。

 

手抜き感バリバリだったが、母には文句も言えなかった。言ったら殴られることは目に見えていたから。中途半端な優等生なもので、黙って食べた。いろんな意味でしょっぱい味がしたのは言うまでもない。

 

それ以来、生ハムが食べられなくなった、というわけではない。私はそこまで神経が弱いわけじゃないし。

 

でも、生ハムを食べるたびに実母を思い出す。懐かしい味である。